5th『WHITE』

・発売日 2011/9/28


 個人的には1stアルバムの『Home』に次ぐ完成度だったと思う前作の『LIFE』から一年――“原点回帰”というテーマを掲げて製作されたのが本作の『WHITE』である。
 過去四枚のアルバムはそれぞれに独特のテーマと世界観があり、しっかりと統一の取れた作品だったように思う(『TODAY』はサウンドにばらつきがあると言われているが、個人的には特に不満なし)。しかし今回の作品は、特に原点が見えるような中身ではなかったし、むしろ統一感のなさが半端なかったような印象を受けた。


01. 始まりのバラード ★★★★★

 シングルタイトルチューンでは久しぶりの良作である。詳しくはシングルのほうのレビュー参照。


02. 津軽海峡・冬景色 ★★☆☆☆

 演歌の大御所、石川さゆりが歌った名曲のカヴァー。アンジーの生まれた年に発表された曲で、幼い頃から耳にしていたという。
 曲が曲ということもあり、アンジーの気合いの入れようも半端なかったのだろう。いままでにないくらい歌唱力を発揮している。しかし、それはあくまで“彼女にしては”の範囲であって、原曲と比べてみるとやはり劣っていると感じざるを得ない。誰かがアンジーの歌声には艶がないと言っていたが、まさにその通りである。
 また、ジャンルが演歌ということもあって、アルバムの世界観を壊す要因の一つとなっているように思う。シングルのボーナストラックくらいに収めておいてほしかった、というのが正直な感想だ。


03. I Have A Dream ★★★★★

 タイアップが付いたということでアルバムにも収録されたのだろうが、シングルのカップリングとして既出なため、どうせならこの枠を新曲に使ってほしかった。曲自体はとても好き。


04. フリオ ★★★★★

 一番で、幼い頃はなんでもできると信じていた少年フリオは、成長するにつれて現実の厳しさを知っていく。二番で、社会人になったフリオは空が好きな女性に出会い、彼女のおかげで後ろ向きになっていた心が次第に前向きに変わり、信じることを思い出す。そして最後は彼女と結婚し、二人の間に子どもができる。その子どもにフリオはこれまでの人生で学んだことを教える――そんな感じの一つのストーリーに仕上がっている曲だ。
 アコギによる軽快な伴奏で爽やかな曲調となっているが、メッセージ性の強さには魅かれるものがあった。


05.  My Grandfather's Clock ★★★☆☆

 日本では『大きな古時計』として有名な曲の原曲をカヴァー。
 日本語詞とは歌詞が少し異なり、ストレートな表現が目立つ。また、おじいさんの亡くなった年も日本語版は100歳だが、原曲のほうは90歳と十年の違いがある。おそらく語呂を合わせるために100歳に変えられたのだろう。


06.  モラルの葬式-revival- ★★☆☆☆

 寓話三曲の中でも最も人気の曲をリアレンジしたもの。ピアノの伴奏と混声合唱団+αによるコーラス、それとちょっとした効果音のみというシンプルな形に生まれ変わっている。
 この曲は西川さんのギターが肝になっていると思うので、それを抜いてしまった今回のアレンジは物足りなさを感じてしまう。どうせなら壮大なアレンジのなされたTODAYツアーのスペシャルバージョンを収録するべきだっただろう。


07.  ふるさと〜HOME ★★★☆☆

 MY KEYS 2009にて披露された、NHK東京児童合唱団ユースシンガーズのコーラスを交えたHOME。童謡“ふるさと”からの入りとなっている。
 合唱団のコーラスは感動的なまでに美しかったが、肝心のアンジーの歌があまりにもあっさりしていて、何度も聴こうという気にはなれなかった。HOMEといえばアンジーのデビュー曲であり、ほとんどのライブで歌うほど重宝してきたんだから、もっと大事に歌ってほしかった。


08. 目撃車 ★★★★☆

 ある一台の中古車がいろんな人の手に渡り、いろんな人の人生を見てきたという歌。魂のない中古車の視点から展開される物語は、ユーモアとメッセージ性に溢れ、アンジーの作詞の才能を改めて実感できた。
★四つか五つで迷ったのだが、迷うくらいならどこか満足していないのだろうということで四つにした。


09. Honesty ★★★★★

 MY KEYS 2008の“英語でしゃべらナイト”でも披露された、ビリー・ジョエルのカヴァー。不誠実に塗れた中で誠実さを求める歌である。
 原曲のままでも十分にいい曲だと感じることができるが、アンジーがどんなふうに訳すか聴いてみたかったので、欲を言うなら日本語詞にしてほしかった。


10. One Family ★★★★★

 壮大な人間賛歌である。人間が心に引いている境界線を取り除けば、きっと繋がることができる。その繋がりは大きな輪になり、家族の輪になる――Every Woman’s Songの二番煎じともとれてしまうが、こちらはもっと広い視野で繋がりを捉えた歌だ。今回のアルバムの中では最も好きな曲である。


■総評

 一つ一つ見ていくなら、「フリオ」や「One Family」といったいい曲もあるのだが、全体的には不満の残るアルバムである。
 その要因の一つは曲数が少ないこと。いつもは13曲構成のアルバムが、今回は10曲というコンパクトなサイズに成り下がっている。なんだか物足りなさを感じてしまうのを否めない。
 それからセルフカバー2曲が足を引っ張っているように感じられた。HOMEはさておき、モラルの葬式なんかは原曲が好きだから期待していたのに、蓋を開けてみると残念なアレンジになっていてがっかりだった。
 失恋ソングがないのも非常に残念。アンジーの失恋ソングは非常に素直に感情を表し、最も本質が滲み出ていると思うので、1曲くらいは収めてほしかった。